宗教学事典 より

  自らを生かす本源的な事の道理、あるいは一切を包み超えて生命を主宰するものに、いかに自覚的であり得るか、進んでそれに聴従するか否かで、同じように行かされつつも、その生かされようは天と地ほども隔たりを示すことを、古来、宗教は教えてきた。彼方から届けられるよびかけに心を閉ざし、己の想念にのみ従いゆくならば、足下に転落の穴は易々と開く、と。しかし、堕ち切って、深き淵からようやく外なる上方に眼差しを向ける者の傍らにも、その生の愚かさを含めての一切を知り司る者が共にあるかもしれぬことを、東西の古典的テキストは告げている。

 

(「宗教学事典」平成22年10月30日 発行、X.越境と深化、p.623 愚者 (谷 寿美)  )