2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

雀の死

スズメが教室に迷い込んできた。 夏か、春か、秋だったかもしれない。冬ではなかった。 いつものとおり、柔らかでおだやかな陽が射し込む教室には、とくに変わりのない児童たちの騒がしさと日常があった。 スズメは窓から、たまたま中に入ってきた。 皆は一…

クラウス・リーゼンフーバー小著作集 より

「......こうして話し合ううちに、「我」と「汝」の人格的な接触が成立する。対話をする人は、真理に与ろうとする目標のもとで、「汝」への尊敬と愛情のうちに成長していく。その過程では、自分の心にある考えた感情を、保留なしに相手と分かち合うことがで…

トーマス・マン「魔の山」より

「......そこには父の名もあれば、祖父自身の名も、曽祖父の名もあった。この「曽/ウル」という接頭語が、祖父の口の中で二つになり三つになり四つになると、孫の少年は頭を横にかしげ、瞑想するような、あるいはぼんやり夢想するような眼つきで、口をつつま…

トーマス・マン 「魔の山」 より

「...... ふつうには時間だけが持っていると考えられている力を、われわれ人間とその故郷との間に旋回し疾走しながら拡がっていく空間が示すようになる。つまり、空間も時々刻々に心的変化を生みだすのだ。そしてその変化は、時間によって生ずる変化によく似…

世界の果てのような静けさ

蝉が鳴いている。 乾燥機がまわっている。 時計の針が刻んでいる。 聴こえる。 季節のめぐりは、やまない。 都心にいても、時の経過はおもむろに、ささやかに、顔を出す。 人がそれに目を向けても、向けなくとも。 野生のヒグマの写真が、すぐそこの壁にかか…