雀の死

 

スズメが教室に迷い込んできた。

夏か、春か、秋だったかもしれない。冬ではなかった。 いつものとおり、柔らかでおだやかな陽が射し込む教室には、とくに変わりのない児童たちの騒がしさと日常があった。

 

スズメは窓から、たまたま中に入ってきた。

皆は一斉にスズメに注意をはらった。スズメは少し飛んで、そのあとで床の上に降りて、歩いていた。

皆はスズメを取り囲んだ。 ちょうどスズメを真ん中にして、その周りに集まっていた。スズメは少し弱っていたのかもしれない。

 

私は皆と同じように、でももしかしたら皆よりも幾分強い意識をもって、スズメにかかわろうとした。 私は当時、鳥を飼っていたからである。 このスズメも手に乗ってくれるのではないか。鳥ならいつも家でよく触っている。

 

一歩踏み出して、スズメに近寄った。しゃがみ込んで寄り添おうとしたのか、もしくは、集まりの場所から真ん中を通って反対側に行こうとしたのか、あまり覚えていない。 でもとにかく、スズメのいる真ん中の方へ近づいたのだろう。

その直後、スズメは、動かなくなった。

スズメは、死んでしまった。

なぜなのか。

 

--- 静 ---

ー--無 ---

--- 死 ---

 

ショックだった。

当時、8歳くらいだったろうか。

心に受けた重みと混乱をいまでも少し、思い出すことができる。

 

皆も驚いていた。

私はもっと驚いていた。

スズメは、死んでしまったのだ。

 

そのあとの展開はよく覚えていない。

誰かがスズメを運んで、外の土に埋めたのかもしれない。

 

私は焦りと、怖さと、悲しさでいっぱいだった。それら以外のものは私の世界から消えてしまったくらいに、暗くて重たい感覚は、私自身と一体となって、私のなかにしばらくのあいだ消えずにいた。

 

私は珍しく、学校で泣いた。

泣いているのを知られたくなくて、机に伏せたまま、どのくらいだろうか、何十分か、何時間か、動くことができなかった。

 

そのあとのことや、クラスメイトや先生と交わした言葉はまったく記憶にない。

 

ただ、そのときの衝撃を、覚えている。